以前、「医師が高血圧の薬を処方する際に考慮する事とは」と言う記事で、高血圧治療薬の一部には「積極的適応」となる疾患が定められていると書きました。
今回はカルシウム拮抗薬が積極的適応になっている疾患を解説したいと思います。
カルシウム拮抗薬は、効果が強く、安全性も高いため、積極的適応となっている疾患を持たない方にも全世界で幅広く使用されています。
「カルシウム拮抗薬って何?」と言う方は以下をご参照下さい。
カルシウム拮抗薬の積極的適応
カルシウム拮抗薬は、高血圧症に以下のような合併症があった場合に積極的適応となります。
- 左室肥大
- 頻脈
- 狭心症
- 慢性腎臓病の尿蛋白(にょうたんぱく)が陰性
- 脳血管障害慢性期
聞き慣れない疾患もあるかと思います。
これらの疾患に対して、カルシウム拮抗薬がなぜ積極的適応になっているのかご説明します。
左室肥大
高血圧の状態では、心臓は強い力で血液を心臓から送り出さなければなりません。
このため、心臓の壁の強い圧力がかかる部分では、肥厚が生じます。
血液は左心室から全身に送られるため、高血圧では左心室の肥大(左室肥大)が起こりやすいのです。
左室肥大は心房細動や心不全の原因となります。
(心房細動は脳卒中などを引き起こすことがあるため、危険な疾患の一つです。)
カルシウム拮抗薬は心臓から全身に送り出す血管などの大きな血管を拡張します。
血管が拡がることにより、左心室は血液を送り出す力が弱くて済むようになり、左室肥大が改善しやすくなります。
左室肥大の改善には、収縮期血圧(上の血圧)と拡張期血圧(下の血圧)の両方を下げておくことが重要です。
左室肥大を持つ高血圧患者であったとしても、血圧を130/75~79mmHg未満にコントロールすることができれば、心血管疾患の発症率を、心肥大(左室肥大など)がない高血圧患者と同等まで低下させる事ができると言う報告があります。
頻脈
頻脈(ひんみゃく)とは、心拍数が増加している状態。 成人の安静時心拍数はおよそ毎分50~70回(bpm)であるが、100bpmを超える状態を頻脈という。
(※引用元 頻脈 – Wikipedia)
カルシウム拮抗薬は「ジヒドロピリジン系」と「非ジヒドロピリジン系」に分類されますが、非ジヒドロピリジン系のみ徐脈作用があり、非ジヒドロピリジン系のカルシウム拮抗薬は頻脈を伴う高血圧症に対して積極的適応があります。
狭心症
狭心症は、冠血管(心臓に血液を送り込む太い血管)が狭くなり、心臓に送り込まれる酸素量が低下することで、一時的に胸痛などが起こる疾患です。
原因として、「冠血管が器質的に狭窄を起こすもの」と、「冠血管がけいれんを起こすもの」に分けられますが、両者が共にある場合も少なくありません。
冠血管がけいれんを起こすタイプの狭心症を冠攣縮性狭心症と呼び、カルシウム拮抗薬がよく効きます。
また、冠血管の器質的な狭窄により発生する労作性狭心症(運動をすることで症状が出る狭心症)には、β遮断薬とカルシウム拮抗薬のどちらも有効です。
カルシウム拮抗薬は、冠血管を拡張することで心臓へ血液の流れ込む量を増加し、血液に含まれる酸素により、心筋の酸素不足を解消します。
また、血管拡張作用により左心室から全身に血液を送り出す圧力も下げるため、心筋が必要とする酸素量も減らすことができます。
(心筋が強い圧力で全身に血液を送り出すには、より多くの酸素が必要になります。)
この二点から、カルシウム拮抗薬は狭心症に有効です。
慢性腎臓病(尿蛋白陰性)
慢性腎臓病では、心血管疾患を発症する危険性も高まります。
カルシウム拮抗薬は血圧を低下させることで腎障害の進行を抑制することができるため、積極的適応になっています。
なぜ、尿蛋白が陰性(尿検査で尿蛋白が出ていない状態)の場合でのみ積極的適応となっているのでしょうか?
蛋白尿があると言うことは、腎臓が障害されていると言うことだでなく、蛋白尿自体が腎臓を障害すると考えられています。
このため、蛋白尿陽性(蛋白尿が出ている状態)の方には、腎臓の保護作用が大きいARBやACE阻害薬を優先的に用いることとなっているためです。
蛋白尿が陰性の場合の慢性腎臓病では、カルシウム拮抗薬とARB・ACE阻害薬と利尿薬のどれが最も有効なのかは十分に証明されておらず、現状ではどの薬剤も積極的適応となっています。
ちなみに、慢性腎臓病では徐々に腎機能が低下していきますが、急性腎臓病では急激に腎機能が低下します。
慢性腎臓病は、高血圧症を始めとする生活習慣病によって引き起こされる事が多く、初期では自覚症状がほとんどないため進行しやすく、腎機能は一度悪化すると改善することが困難なため、恐ろしい病気です。
脳血管障害慢性期
脳血管障害とは、脳の血管が障害を受けた病態の事で、「脳梗塞」と「脳出血」のことを指します。
「脳血管障害急性期」とは、脳梗塞や脳出血を起こしたすぐ後を意味し、「脳血管障害慢性期」とは急性期の治療が終わって、リハビリテーションと再発予防に備える段階を意味します。
高血圧は脳血管障害の再発に関与する最も重要な危険因子と言われています。
カルシウム拮抗薬は血圧は下げるが、脳血流量(脳の血管で流れる血液の量)を減少させないと言う報告があります。
脳での脳血流量を減少させてしまうと、認知機能が低下することなどが考えられます。
以上、「高血圧治療薬のカルシウム拮抗薬が適した方とは?」でした。