高血圧治療薬にどのような種類の薬剤があるかについて、「高血圧治療薬にはどのような種類があるか?」で書かせて頂きました。
では、医師はどのような基準でこのような薬剤の中から処方選択しているのでしょうか?
(一般的に処方選択時に考慮すべき事項を記載しており、実際にはここに記載している事以外を判断基準にしている事もあります。)
医師が処方薬を選択する基準
一般的にお薬を選択する際には以下のような事を考慮します。
積極的適応があるか
「積極的適応」とは何でしょうか?
例えば、カルシウム拮抗薬の多くは狭心症に対して抑制効果があります。
このため、カルシウム拮抗薬は狭心症を併せ持つ高血圧症には、一石二鳥のメリットがあり、積極的適応になっています。
特に、カルシウム拮抗薬の中の、ジヒドロピリジン系と言う薬剤の多くは、頻脈に対しても効果があるので、ジヒドロピリジン系の薬剤は、頻脈を併せ持つ高血圧患者に積極的適応があります。
また、ARBは心臓や腎臓を保護する効果があり、心筋梗塞後や糖尿病(糖尿病では腎障害が起こりやすい)を併せ持つ患者様では積極的適応があります。
このように高血圧治療薬の一部には、積極的適応のある疾患が定められており、それらの有無を確認します。
禁忌や慎重投与に該当する病態がないか
禁忌とは、該当の薬を使用してはいけない事項です。
例えば、ARBやACE阻害薬はよく処方される薬剤ですが、妊婦には使用してはいけないため禁忌です。
慎重投与とは、使用する場合は患者の体調変化や検査値などをよく観察しながら投与する事項です。
これに該当する例としては、β遮断薬は血糖値を変動させるため、β遮断薬の多くの薬剤が低血糖症に対して慎重投与となっています。
このような項目に該当する場合は、極力使用を避けようとします。
血圧を下げる効果の強さはどうか
お薬の種類により、血圧を下げる効果には大きな違いがあります。
例えば、同じ利尿薬であっても「カリウム保持性利尿薬」と呼ばれる薬剤は「サイアザイド系利尿薬」と呼ばれる薬剤よりも血圧を下げる効果に関しては弱いです。
血圧を目標とする範囲まで下げれるものでなければいけません。
薬剤の副作用が出やすかったり、重大な副作用の危険性はないか
医薬品であれば、副作用が全くないと言うものはほとんどありません。
副作用があるから使用しないと言う訳ではなく、「副作用が出たとしても患者様が耐えられるものであるか」、または「副作用頻度が低いため使用した時のメリットを優先できるか」などと言う点を判断基準にしています。
特定の薬剤の、副作用の発生する頻度や、重大な副作用は「添付文書情報メニュー」で検索すると記載されていることが多いです。
生活の質への影響
近年、「QOL」と言う言葉がよく使用されています。
これは「quality of life」の略で、一般的に「生活の質」と訳されます。
生活の質とは、「個人が社会生活を送る上で、人間らしい幸福感のある生活を送れているか」と言うことを指します。
例えば、生活の質が低下した方とは、寝たきりの方などが該当します。
薬剤もQOLに影響を与えることがあります。
例えば、ACE阻害薬の副作用には「空咳」と言うものがあり、痰が絡まない咳がACE阻害薬を服用した方の20~30%の方に起こると言われています。
日常生活で咳が出やすくなれば、うっとうしいと感じる方も多いと思います。
このような方にとって、空咳は命に関わる副作用ではありませんが、生活の質には大きく影響を与えるものです。
しかし、この空咳はその特性を活かして、高齢者などの誤嚥性肺炎の予防の目的で使用される場合もあります。
このようなケースでは、空咳は役に立つ作用と言えます。
このような「生活の質」も考慮して、薬剤を選択しなければなりません。
薬剤の費用
医療用医薬品の値段(薬価)は、市販薬の値段のように分かりやすいものではないと思います。
これは、医療用医薬品を薬局で調剤してもらう際に支払う金額は、薬剤料以外にも調剤技術料や薬学管理料などと言った項目が入っていたり、個人の負担割合分のみを支払うようになっているため、より一層分かりにくい仕組みになっています。(自費薬などの例外はあります。)
しかし、薬価は薬剤によりビックリする程違いがあります。
薬剤を選択する際には、患者様の金銭的負担や、薬剤の費用対効果にも配慮しなければいけません。
ちなみに、ご自身が服用している薬剤の薬価は、薬局でもらうことができる「薬剤情報提供文書」にも書いてあります。
薬剤情報提供文書は、お薬の効果や注意事項が一覧になって載っている文書です。
最後に
薬剤を選択する際に考慮すべき主な事項を挙げてきました。
しかし、医師が実際の現場で薬を選択する際には、このような患者目線の事以外にも様々な事を考えて処方選択されています。
例えば、「学会発表や論文の内容」や「周りの医師の意見」、「製薬会社の営業担当から提供される情報」、「医師の個人的な過去の経験」などがあると思います。
少しだけ余計な事を付け加えておくと、病院によっては医薬品を何でも処方できる訳ではなく、病院と製薬会社との取り引きで「採用薬」と言うものを決めており、その範囲内でしか処方できないこともあります。
以上、「医師が高血圧の薬を処方する際に考慮する事とは」でした。