今回は高血圧治療薬であるβ遮断薬が「積極的適応」となる疾患について解説したいと思います。
(この記事ではベータ遮断薬が積極的適応となっている疾患のみ解説しており、ここに記載している合併症がない方にも使用される事はあります。)
β(ベータ)遮断薬の積極的適応
β遮断薬は、高血圧症に以下のような合併症があった場合に積極的適応となります。
- 心不全(少量から開始し、注意深く漸増する)
- 頻脈
- 狭心症(冠攣縮狭心症には注意)
- 心筋梗塞後
以上の疾患がどのような疾患かと言うことに関しては、全て過去の記事でご説明しています。
心不全と心筋梗塞については「高血圧治療薬のARB・ACE阻害薬が適した方とは?」を、頻脈と狭心症については「高血圧治療薬のカルシウム拮抗薬が適した方とは?」をご参照下さい。
今回は、β遮断薬がいかにこれらの疾患に有効であるのかについて書きたいと思います。
心不全
β遮断薬は心臓のポンプ機能を抑制する薬剤ですが、心臓のポンプ機能が低下している心不全に対して有効であると言うのは、不思議に思う方も多いのではないでしょうか?
昔は心不全には、逆に心臓の機能を高めるような薬剤(強心薬)が使用されていました。
(現在でも心不全に強心薬が使用される事はあります。)
しかし、強心薬では心不全患者の長期的な状態を改善することはできませんでした。
心不全に対してβ遮断薬が有効性があると言う報告は1975年から出てきて、その後、多数の調査により心不全にβ遮断薬は有効であることが示されました。
ただし、β遮断薬は心不全を悪化させることもあり、β遮断薬の中でも心不全に有効性が高いものとそうでないものがあるため、慎重に使用しなければいません。
全ての心不全に対してβ遮断薬が有効と言う訳ではなく、うっ血性心不全に対してはβ遮断薬は使用できないとなっています。
頻脈
「ノルアドレナリン」と言う物質が、心臓の「β1受容体」と呼ばれる部位に結合すると血圧が上昇します。
これにより、β1受容体が刺激されて頻脈も起きます。
β遮断薬は、ノルアドレナリンが心臓のβ1受容体に結合するのを阻害するため、頻脈を改善します。
β遮断薬をカルシウム拮抗薬のジルチアゼムやベラパミルと併用すると、徐脈や心不全が出やすくなるため、注意が必要です。
ベラパミルは高血圧症で使用されることはないため記載していませんが、添付文書情報メニューで検索して頂ければ詳細が確認できます。
ジルチアゼムに関しては以下をご参照下さい。
狭心症
狭心症の中でも、「労作性狭心症」とは体を動かしている時に胸の痛みなどの症状が出る狭心症です。
この労作性狭心症には、β遮断薬とカルシウム拮抗薬が積極的適応になっています。
しかし、最近は外科的な技術が進歩したため、外科的な処置が困難な方に投与されることが多いようです。
労作性狭心症とは反対に、睡眠時などの安静時に狭心症がでる「安静時狭心症」と呼ばれるものがあります。
この安静時狭心症には、冠動脈(心臓に繋がる大きな血管)がけいれんを起こして狭心症発作が出る「冠攣縮性狭心症」が多いのですが、この冠攣縮性狭心症をβ遮断薬が起こしやすくする事があります。
このため冠攣縮性狭心症の場合には、カルシウム拮抗薬が積極的適応となっています。
日本人には冠攣縮が関与する狭心症が多く、どちらか見分けがつかない場合はカルシウム拮抗薬を単独で使用するか、β遮断薬を用いる場合にはカルシウム拮抗薬と併用することになっています。
また、β遮断薬の中には、β遮断薬自身がβ受容体に刺激を与える薬があります。
これらの薬は、高齢者や徐脈の患者様には適していますが、狭心症の治療で使用する場合は、そうではない薬剤(β遮断薬自身にβ受容体に対する刺激作用がない薬剤)に比べて効果が劣るため不適です。
心筋梗塞後
多くの臨床試験により、β遮断薬は心筋梗塞後の再発防止効果が報告されています。
(一度心筋梗塞を起こした事がある方は、一度も心筋梗塞を起こした事がない方に比べて、心筋梗塞を含めた心臓や血管に起こる病気を発症する頻度が高くなっています。)
β遮断薬は心臓の働きを弱めることができるため、心臓の筋肉が消費する酸素の量を減らすことができます。
(筋肉は激しい運動をする時に、大量の酸素を必要とします。)
この心臓の酸素の必要量を少なくすることにより、心筋梗塞により血管が細くなり、血液と酸素が心臓に流れてくる量が少なくなった場合でも、心筋梗塞を起こしにくくすることができるのです。
しかし、β遮断薬は狭心症の項でも述べた通り、冠攣縮を起こしやすくする恐れがあるため、国内での使用頻度はあまり高くはありません。
上記の狭心症と同様、β遮断薬自身がβ受容体に刺激を与える薬剤は心筋梗塞後の再発防止には不適となっています。
以上、「高血圧治療薬のβ遮断薬が適した方とは?」でした。