生活習慣の改善により、血圧が目標とするレベルにまで下がらなかった場合、高血圧治療が開始されますが、これから高血圧症の治療薬を開始する方に、高血圧症以外の何らかの病気があり、これまでに書いた積極的適応(※)がある方は、使用すべき薬剤の判断基準は明確です。
しかし、高血圧症以外に何も併せ持つ病気がない患者様もたくさんいらっしゃいます。
そのような時には、「医師が高血圧の薬を処方する際に考慮する事とは」で書いてあるような事を考慮しながら処方選択をすることになります。
ただし、高血圧症に対して優れた効果が認められている治療薬は限られているため、治療する際に「最初に選択すべき薬」も日本高血圧学会の「高血圧治療ガイドライン2014」により推奨されています。
この最初に選択すべき治療薬を、「第一選択薬」と呼びます。
第一選択薬
高血圧治療ガイドライン2014における第一選択薬
既に書いたように、第一選択薬は高血圧治療薬の中でも特に効果や副作用の面で優れたものとなっていますが、「高血圧治療ガイドライン2014」において第一選択薬には以下の4種類の薬剤が定められています。
- ARB
- ACE阻害薬
- カルシウム拮抗薬
- 利尿薬
この中から、患者様の背景や状態などを考慮して医師が最も適した治療薬を選択します。
処方頻度としては、ARBとカルシウム拮抗薬が最も処方されることが多く、それだけ有効性や安全性に関する多くの根拠があります。
高血圧治療薬は組み合わせて使用することでメリットが生じるものもあり、服用する薬の数が多くなりがちですが、近年は配合剤も多く発売されているため、1種類の薬に2種類や3種類の成分が入った治療薬もあります。
各治療薬の特徴などについては、以下に詳細を書いていますのでご参照下さい。
β遮断薬が外れた理由
旧ガイドラインでは、β遮断薬がこの第一選択薬に入っていましたが、2014年に改定されたことでβ遮断薬が第一選択薬から外れました。
β遮断薬にも優れた効果はありますが、第一選択薬から外れた理由としては以下のようなことがあります。
- β遮断薬は心血管疾患(狭心症や心筋梗塞などの心臓や血管の病気)の抑制効果があるが、その他の臓器障害の抑制効果(※)が、上記の4種類の薬剤よりも劣ると言った調査結果がある。
(※ 高血圧症では心臓や腎臓や脳などの臓器に障害が出やすく、高血圧治療薬にはこれらの臓器に障害が起こりにくくする薬もあります。) - 糖尿病を引き起こす作用がある。
(β遮断薬を使用した方が全て糖尿病になると言うことではなく、血糖値を少し上げる可能性があると言う意味です。)
しかし、これらの判断材料として、アテノロール(テノーミン)などの比較的古いβ遮断薬の試験データを用いており、カルベジロール(アーチスト)などの比較的新しいβ遮断薬に対しては上記の事が結論付けられていないため、比較的新しいβ遮断薬でも同様の事が言えるのかは明らかとなっていません。
利尿薬とβ遮断薬の違い
利尿薬には血糖値を上昇させる作用があり、その他尿酸値や血清脂質も上昇させる恐れがあります。
それにも関わらず、利尿薬は第一選択薬として採用され続けています。
この理由は、利尿薬は食塩感受性高血圧を改善する効果があり、日本人における脳卒中を抑制する効果が認められているためです。
また、高血圧治療薬として最もよく処方されるARB・ACE阻害薬やカルシウム拮抗薬と併用する際にも、利尿薬はβ遮断薬よりも優れていたと言う臨床試験結果があるためです。
ただし、利尿薬を大量使用した場合には、副作用が起こりやすくなるため、少量使用することが推奨されています。
以上、「高血圧治療で最初に選択されるべき4種類の治療薬」でした。