前回のカルシウム拮抗薬と同様に、今回解説する「ARB(エーアールビー)」や「ACE(エース)阻害薬」もとても多くの方が使用しています。
ACE阻害薬よりもARBの方が処方頻度は高めですが、ACE阻害薬にしかない作用もありますので、ACE阻害薬も貴重な薬剤の一つです。
ARBやACE阻害薬の作用の仕方
ARBやACE阻害薬の作用の仕方は少し複雑になります。
(興味が無い方は、高血圧症を予防・改善する上で必ず知っておかなければいけない知識ではありませんので、ここは読み飛ばして頂いてもいいかと思います。)
まず、肝臓で作られたアンジオテンシノーゲンと言う物質が、レニンの作用でアンジオテンシンⅠと言う物質に変化します。
さらにこのアンジオテンシンⅠは、ACEやキマーゼと言う物質でアンジオテンシンⅡと言う物質に変化します。
アンジオテンシンⅡが、アンジオテンシンⅡ受容体と言うところに結合すると、血圧が上昇したり、様々な臓器に障害を起こしやすくなります。
(正確には、アンジオテンシンⅡ受容体はAT1受容体とAT2受容体に分けられます。AT1受容体に結合すると血圧上昇・臓器障害を起こし、AT2受容体では血圧低下・臓器保護作用を示します。しかし、アンジオテンシンⅡのほとんどはAT1受容体に結合するため結果的に血圧は上昇します。)
また、ブラジキニンと言う物質は血圧を低下させる働きがありますが、ACEにより不活化(効果を消失させること)されます。
文章だけでは理解しにくいと思いますので、ここまでをまとめたのが下図になります。
ACE阻害薬は、ACEの働きを阻害するため、アンジオテンシンⅡの生成が減少し、血圧が低下します。
また、ブラジキニンの不活化も抑えるため、ブラジキニンが増加して、さらに血圧が下がります。
ARBはアンジオテンシンⅡ受容体のAT1受容体を選択的に遮断するため血圧低下・臓器保護作用を示します。
ARBやACE阻害薬の主な製品
ここでは、ARB・ACE阻害薬・配合剤の主な製品をご紹介していますが、2017年9月17日現在での情報となります。
ACE阻害薬の主な製品は以下の通りです。
一般名 | 商品名(先発医薬品) |
カプトプリル | カプトリル |
エナラプリルマレイン酸塩 | レニベース |
デラプリル塩酸塩 | アデカット |
シラザプリル水和物 | インヒベース |
リシノプリル水和物 | ゼストリル |
ロンゲス | |
イミダプリル塩酸塩 | タナトリル |
テモカプリル塩酸塩 | エースコール |
ペリンドプリルエルブミン | コバシル |
続いて、ARBの製品は以下となります。
一般名 | 商品名(先発医薬品) |
カンデサルタン シレキセチル | ブロプレス |
ロサルタンカリウム | ニューロタン |
バルサルタン | ディオバン |
テルミサルタン | ミカルディス |
オルメサルタン メドキソミル | オルメテック |
イルベサルタン | アバプロ |
イルベタン | |
アジルサルタン | アジルバ |
(※ 一般名とは、薬剤の主成分の名称となります。)
ARBはカルシウム拮抗薬と一緒になった配合剤も販売されています。
ここで「ジェネリックなし」と記載されていたとしても、ジェネリック医薬品は先発医薬品の特許が切れ次第順次発売されていく見込みです。
一般名 | 商品名(先発医薬品) | ジェネリック |
オルメサルタン メドキソミル・アゼルニジピン | レザルタス | ジェネリックなし |
バルサルタン・シルニジピン | アテディオ | ジェネリックなし |
バルサルタン・アムロジピンベシル酸塩 | エックスフォージ | アムバロ |
カンデサルタン シレキセチル・アムロジピンベシル酸塩 | ユニシア | カムシア |
アジルサルタン・アムロジピンベシル酸塩 | ザクラス | ジェネリックなし |
テルミサルタン・アムロジピンベシル酸塩 | ミカムロ | テラムロ |
イルベサルタン・アムロジピンベシル酸塩 | アイミクス | ジェネリックなし |
カルシウム拮抗薬については、以下の記事をご参照下さい。
アテディオとエックスフォージ以外の配合剤の各商品には、ARBかカルシウム拮抗薬のどちらかの用量の違いで2種類の規格があります。
ここではテルミサルタンとアムロジピンベシル酸塩とヒドロクロロチアジドが配合された「ミカトリオ」が記載されていませんが、ミカトリオについては以下の記事をご参照下さい。
ARBやACE阻害薬の特徴
ACE阻害薬
ACE阻害薬の血圧を下げる作用はARBと比べると、効果は同等か少し劣ると言われています。
脳・心臓・腎臓などの保護作用があり、心臓や腎臓に疾患がある方や糖尿病がある方などには推奨されます。
日本循環器学会の「心筋梗塞後二次予防に関するガイドライン」では、心筋梗塞後に再発予防の目的で使用する場合、ARBよりもACE阻害薬を優先的に使用し、ARBはACE阻害薬による副作用に患者様が耐えられない場合などに使用するようになっています。
しかし、既に記述した通りACE阻害薬はブラジキニンを増加させます。
ブラジキニンは空咳(痰の絡まない乾いた咳)を起こしやすくなると言う作用があり、ACE阻害薬服用により空咳が服用後1週間から数か月以内に高い頻度(約20~30%)で出ます。
空咳は、通常副作用であり健常な方にとっては有害なものですが、誤嚥性肺炎を併せ持った高血圧患者で使用する場合は、血圧を低下させると共にこの咳が出やすくなると言う特性を活かして誤嚥を防ぐ目的があります。
ACE阻害薬の中でも、誤嚥性肺炎の予防効果が大きいものとしてペリンドプリルエルブミン(コバシル)が挙げられます。
空咳は、副作用として発現した場合でもACE阻害薬を中止することで、すぐに消失します。
また、ACE阻害薬の中でもペリンドプリルエルブミン(コバシル)とカプトリル(カプトプリル)は、アルツハイマー病に対しても抑制的に作用することが明らかになってきています。
(※参考 PharmaTribune 2015年8月号 P40 東北大学加齢医学研究所教授 大類孝 氏)
ACE阻害薬で起こりやすい副作用には、空咳以外にも、味覚異常、むくみ、発疹、低血圧によるふらつき、高カリウム血症(四肢のしびれや不整脈、吐き気などが出やすい)などがあります。
また、最近の論文では、ACE阻害薬はわずかに肺がんのリスクを上げると言われています。
(※参考 「ACE阻害薬を10年以上服用すると肺がんリスクが3割上昇? – QLifePro 医療ニュース」)
しかし、ACE阻害薬を服用するベネフィットの方が有益であると言う見解もあり、現段階では過剰に心配し服用を中止したりは絶対にしないで下さい。
ACE阻害薬はカリジノゲナーゼ(カリクレイン、カルナクリン)と併用することで血圧が過度に低下することがあったり、糖尿病治療薬と併用することで低血糖が起こりやすくなるとの報告もあります。
妊婦には使用できません。
ARB
ARBは単独でも使用されますが、利尿薬やカルシウム拮抗薬と一緒に使用される場合も多いです。
なぜ併用されることが多いのかと言うと、血圧を下げる効果が増強することはもちろんですが、それ以外に以下のような理由があります。
利用薬の中でも高血圧治療薬として用いられる事が多いのは、サイアザイド系利尿薬ですが、サイアザイド系利尿薬は血液中のカリウム値を下げる作用があります。
これに対して、ARBは血液中のカリウム値を上げやすいため、両者の併用は適しているのです。
ARBとカルシウム拮抗薬が併用されやすい理由に関しては、カルシウム拮抗薬は副作用としてむくみが起こりやすいのですが、ARBはこのむくみを軽減する効果があるためです。
このように、利尿薬はARBの副作用を、ARBはカルシウム拮抗薬の副作用を打ち消し合う作用があり、併用することで双方にメリットが生じます。
この他、ARBには以下のような長所があります。
- 心臓の保護作用
- 腎臓の保護作用
- 脳の血液の循環調節改善作用
- 脳の動脈硬化の抑制
- インスリンの効果を良くする作用
このような長所があるため、ACE阻害薬と同様に、高血圧の他に糖尿病や心臓、腎臓、脳などに併せ持った疾患がある方には推奨されるのです。
また、ARBは「PPARγ(ピーパーガンマ)活性」があるものとないものに分けられます。
PPARγ活性があるARBには、イルベサルタン(アバプロ・イルベタン)や、テルミサルタン(ミカルディス)などがあります。
さらに、ロサルタンカリウムとイルベサルタンには、尿酸を尿と一緒に排泄させやすくする作用があり、尿酸値が高めな方には適しています。
副作用は、低血圧によるふらつきや高カリウム血症が出ることがあります。
ACE阻害薬と同じく、妊婦には使用できません。
以上、「高血圧治療薬を分類別に解説!ARB・ACE阻害薬とは?」でした。