本題に入る前に、まず、「合併症」と言う言葉はご存知でしょうか?
合併症(がっぺいしょう)とは、「ある病気が原因となって起こる別の病気」または「手術や検査などの後,それらがもとになって起こることがある病気」の二つの意味を持つ医学用語である。
(※引用元 ウィキペディアより)
つまり、高血圧症による合併症とは、高血圧症が原因となり他の疾患を発症してしまうことを指します。
高血圧症で起こりやすい合併症
高血圧症でも治療をせずに放置している方が多いと言う事は、既に以下の記事で書いています。
高血圧の状態では、全身の様々な血管に対して血液の圧力が高まっています。
通常、血管は弾力性があり、急激な血圧低下や血圧上昇にも収縮と拡張により対応しています。
しかし、この高血圧の状態が続くと、血管の弾力性は失われ、血管が固くなる動脈硬化がおこります。
この動脈硬化が全身の各所で起こることで様々な合併症が起こります。
各臓器に起こりやすい合併症には以下のようなものがあります。
臓器 | 合併症 |
脳 | 脳梗塞・脳出血・くも膜下出血 |
心臓 | 狭心症・心筋梗塞・心肥大・心不全 |
腎臓 | たんぱく尿・慢性腎臓病・腎不全 |
その他 | 眼底出血・網膜静脈閉塞症・大動脈解離・大動脈瘤・末梢動脈疾患 |
(※参考 高血圧に合併する疾患|高血圧と合併症|大日本住友製薬)
「高血圧症の予防」は「要介護状態の予防」にもつながる
脳梗塞や心筋梗塞、脳出血と言われれば、すぐに危険な病気だと認識できると思います。
発症すると死亡率が高いのも怖いですが、これらはうまく発症後すぐに適切な治療ができて、一命を取り留めたとしても、今まで通りの生活はできなくなることも多いのです。
平成27年人口動態統計によれば、死亡原因の1位は悪性新生物(癌)で28.7%、2位は心疾患(心筋梗塞や心不全など)で15.2%、3位は肺炎で9.4%、4位は脳血管疾患(脳梗塞や脳出血などの脳卒中)で8.7%となっています。
2位の心疾患と4位の脳血管疾患を合わせると、1位の癌に迫る死亡率ですが、高血圧症はこの心疾患と脳血管疾患(脳卒中)に対して最も悪影響を与える要因だと言われています。
(正確には、脳血管障害の最大の危険因子は高血圧症ですが、心筋梗塞は最大の危険因子は3つあり、この3大危険因子は、高血圧症と喫煙、高コレステロール血症です。)
また、介護保険制度における要介護度は1~5に分けられていますが、要介護度が高くなる(より介護レベルが高くなる)ほど、要介護状態になった原因が脳血管障害である割合が高くなることが明らかとなっています。
事実、要介護5になった原因では脳血管疾患(脳卒中)が1位で30.8%を占めます。
(※参考 「平成28年国民生活基礎調査の概況」より)
従って、脳卒中を発症すれば要介護度の高い要介護状態に陥りやすく、脳卒中の予防は要介護状態に陥る予防に繋がると言えます。
まとめると、高血圧症を予防することで脳卒中を予防することができ、要介護状態を予防することができると言うことになるのです。
高血圧症は腎機能障害の原因となり、腎機能障害になることで高血圧症が進行しやすくなる
次に、高血圧症とは表裏一体の関係にある腎不全や慢性腎臓病などについてです。
なぜ、高血圧症と腎機能低下が表裏一体の関係なのかと言うと、高血圧症になると腎機能低下が起こりやすく、腎機能低下が起これば高血圧症になりやすくなるためです。
当然のことですが、高血圧状態では全身の血管に対して過剰に圧力がかかっており、負担となっています。
腎臓は毛細血管が集まっている臓器なので、必然的に高血圧状態では血管の障害を受け、腎機能が低下しやすくなるのです。
そして、腎機能が一定レベル以下になると人工透析が必要になります。
腎機能が正常の10-15%以下になると、透析や移植などの腎代替療法(腎臓の機能を代行する治療)が必要です。日本では、「どのような状態になったら透析を始めたほうがいいか」を判定するための「透析導入の基準」(厚生労働省)があります。症状・所見と腎機能・日常生活レベルとの組み合わせで導入時期を考えます。腎機能が正常の15%以上あっても、尿毒症の症状や高カリウム血症、心不全などがあり、適切な治療によって改善しない場合は透析が必要と判断します。
(※引用元 血液透析導入基準 |東京女子医科大学病院腎臓病総合医療センター)
人工透析には、代表的なものに「血液透析」と「腹膜透析」がありますが、血液透析は基本的に週3回の通院が必要で、1回につき4~5時間かかります。
腹膜透析では、1日に数回の透析液の交換を患者様自身が行わなければいけなく、腹膜炎などを起こしやすくなります。
そして、人工透析は腎移植をしない限り、一生継続しなければいけません。
腎機能の低下は単純に腎臓の病気を引き起こしやすくするだけでなく、心筋梗塞や狭心症などの心血管疾患を引き起こしやすくなります。
CKD(慢性腎臓病)患者とCKDではない方の12年間の心血管病の累積発症率を調査したところ、男性のCKD患者では35.6%、女性では22.0%となり、CKDではない方の男性12.0%、女性7.8%と比較して発症率が約3倍も高かったと言う結果(※)が出ています。
(※ 二宮利治(九州大学)ほか: 綜合臨牀, 55, 1248-1254, 2006.)
また、以下のようにも言われています。
CKDでは腎機能の低下とは別の懸念もあります。
それはCKDの進行に伴い心臓や脳の血管の病気が増えるということです。
実際のところ、透析治療が必要になるよりも先に、心筋梗塞や脳卒中などのために亡くなる患者さんが少なくありません。
(※ CKD(慢性腎臓病) 生活習慣病 一般社団法人 日本生活習慣病予防協会)
慢性腎臓病になってもまた、心筋梗塞や脳卒中のリスクが増加してしまい、それによる死亡者の方が、尿毒症を発症して透析になる方よりも多いと言うことです。
高血圧症が原因で脳症が引き起こされることがある
通常、血圧が上昇しても脳がダメージを受けないように、脳には血流を自動調節する機能があります。
しかし、急激な血圧上昇や著しい高血圧が続いた場合には、この自動調整機能が破綻してしまうことがあります。
この結果、脳に浮腫(むくみ)が生じて、適切に治療されなかった場合は、脳出血、意識障害、昏睡に次いで死に至ります。
前兆として、頭痛、吐き気、意識障害、けいれんなどが進行的に現れやすいと言う特徴があります。
一般的には、220/110mmHg以上の高血圧状態が持続していたり、普段は正常血圧である方が160/100mmHg以上の血圧になった場合に起こりやすいと言われています。
しかし、上記以下の血圧では、この「高血圧性脳症」が絶対に起こらないと言う訳ではありません。
高血圧症の放置はとても危険だと言うことが、お分かり頂けると思います。
高血圧症は「サイレント・キラー」
さらに、高血圧症の最も恐れるべきところは「症状がないまま進行していき、ある日突然致死的な合併症を引き起こす」と言う点です。
高血圧症は痛くも痒くもないため放置しやすいですが、何かしら自覚症状が出るころには致命的な危険が迫っているのです。
高血圧症が放置されやすい理由については、以下の記事をご参考にして下さい。
このことから、高血圧症は「サイレント・キラー」とも呼ばれています。
色々怖いことを書いてきましたが、このようなことから高血圧症は絶対に放置してはいけない疾患なのです。
高血圧症を放置している方がいらっしゃいましたら、少しでも危機意識が芽生えて下されば幸いです。
以上、「高血圧症の合併症はこれほど恐い!高血圧症を放置した顛末」でした。