今回はARBとACE阻害薬の「積極的適応」について書きます。
前回のカルシウム拮抗薬と同様に、高血圧症の方に大変よく処方されている薬剤で、ここに記載した合併症がない方にも広く使用されています。
余談ですが、私の父も絶賛愛用中です。
ARB・ACE阻害薬の積極的適応
ARB・ACE阻害薬の積極的適応となっている疾患の一覧は以下の通りです。
- 左室肥大
- 心不全(※少量から開始し、注意深く漸増する。)
- 心筋梗塞後
- 慢性腎臓病(尿蛋白の陰性・陽性の両方)
- 脳血管障害慢性期
- 糖尿病・メタボリックシンドローム
- 誤嚥性肺炎(ACE阻害薬のみ)
以上の7項目があります。
左室肥大、慢性腎臓病、脳血管障害慢性期がどのような疾患かと言うことに関しては、前回記事の「高血圧治療薬のカルシウム拮抗薬が適した方とは?」に説明を譲ります。
左室肥大
カルシウム拮抗薬と同様に、ARBやACE阻害薬にも血管拡張作用があり、左室から血液を送り出す力を弱めることができるため、左室肥大を予防したり、改善する効果があると言われています。
心不全
心不全とは、心臓の血液を全身に送り出す機能(ポンプ機能)が低下して、全身の様々な器官に異常が出た状態を言います。
上記の左室肥大は心不全の原因となります。
ARB・ACE阻害薬は、慢性心不全と心筋梗塞後の将来的な見通しを改善し、心不全による入院の可能性を低下させるため、積極的適応があります。
ただし、ARBやACE阻害薬を心不全に使用する場合は、「少量から開始し、注意深く徐々に増やす」と言う注意書きがあります。
この理由は、心不全ではARBやACE阻害薬を使用すると血圧が急に下がりやすいためです。
少し難しくなるのでここは読み飛ばして頂いても結構なのですが、心不全でARBやACE阻害薬を使用した時に血圧が急に下がりやすい理由として、心不全ではレニン-アンジオテンシン系(※)が活性化されています。
(※ レニン-アンジオテンシン系については「高血圧治療薬を分類別に解説!ARB・ACE阻害薬とは?」をご参照下さい。)
活性化されている状態を、ARBやACE阻害薬により抑制しようとするため、血圧が急激に下がってしまうことがあるのです。
心筋梗塞後
心筋梗塞とは以下の状態を指します。
心臓の筋肉細胞に酸素や栄養を供給している冠動脈血管に閉塞や狭窄などが起きて血液の流量が下がり、心筋が虚血状態になり壊死してしまった状態。
(※引用元 心筋梗塞 – Wikipedia)
簡単に説明すると、心臓の筋肉は拍動するために酸素が必要で、血液の中には酸素が豊富に含まれています。
心筋梗塞では、心臓に血液を送り込む太い血管が細くなったり、詰まってしまうことで、血液が十分に心臓に流れなくなってしまいます。
これにより、心臓の筋肉が酸素不足により壊死してしまいます。
心筋梗塞を一度起こした事がある方は、一度も起こしたことがない方に比べて心血管疾患(心臓・血管など循環器における疾患)が非常に起こりやすくなっています。
多くの大規模臨床試験でもACE阻害薬は、心筋梗塞後に心血管疾患が起こる頻度を減少させることで心筋梗塞後の将来的な見通しを改善することが報告されています。
日本循環器学会の「心筋梗塞二次予防に関するガイドライン」では、心筋梗塞の二次予防(※)効果目的においてはACE阻害薬を第一に選択するように推奨しており、ARBはACE阻害薬を使用するに当たって副作用などの問題がある場合にのみ使用するように推奨されております。
(※ 二次予防とは、重症化すると治療が困難であったり、金銭的負担の大きい疾患を、重症化する前に発見したり処置をすることです。)
また、少し難しい内容で恐縮ですが、ARBやACE阻害薬がいかに心筋梗塞を抑制するかに関しては、MMP-9と呼ばれる心筋梗塞に関連がある遺伝子の発現を抑制するなどして、心筋梗塞の発症や再発を抑えるようです。
慢性腎臓病(尿蛋白の陰性・陽性の両方)
慢性腎臓病であれば蛋白尿が陰性であっても陽性であっても、ARBやACE阻害薬が積極的適応になります。
(尿蛋白が陰性とは、尿検査で尿蛋白が出ていない状態のことで、陽性とは尿蛋白が出ている状態を指します。)
この理由に関しては、以下の記事に書いてありますので、興味がある方はご参照下さい。
慢性腎臓病における適正な血圧の目標値と最初に選択すべき治療薬は、糖尿病の有無、蛋白尿の有無により、下記のように推奨されています。
(高血圧治療ガイドライン2014より作図)
慢性腎臓病があり、糖尿病もある方や蛋白尿が陽性の方では、慢性腎臓病があったとしても蛋白尿が陰性の方に比べて、心血管疾患を発症するリスクが高いため、血圧の目標値がより厳格に設定されています。
余談ですが、通常血圧は一日を通して変動します。
慢性腎臓病では、この一日の血圧変動が正常範囲から高くなっている傾向あり、その中でも夜間高血圧では慢性腎臓病の悪化や心血管疾患の発症に繋がりやすくなります。
脳血管障害慢性期
脳血管障害とは、脳の血管が障害を受けた状態の事で、「脳梗塞」と「脳出血」のことを指します。
「脳血管障害急性期」とは、脳梗塞や脳出血を起こしたすぐ後を意味し、「脳血管障害慢性期」とは急性期の治療が終わって、リハビリテーションと再発予防に備える段階を意味します。
脳血管障害(脳梗塞や脳出血)を起こしたことがある方は、脳血管障害を起こしたことがない方に比較して再び脳血管障害を発症する危険性がとても高くなっています。
高血圧は脳血管障害の最大の危険因子であるため、血圧を適正範囲にコントロールすることが、脳血管障害の発症を抑えることに繋がります。
ARBやACE阻害薬は、脳の血液循環調節・改善作用と抗動脈硬化作用(動脈硬化を防ぐ作用)があり、これにより脳血管障害慢性期に積極的適応となっています。
糖尿病・メタボリックシンドローム
糖尿病は血液中の血糖値が異常に高くなった病気です。
メタボリックシンドロームの定義は、以下をご参照下さい。
ARBやACE阻害薬の中には、インスリン(血液中の血糖値を下げる物質)の効果を改善したり、骨格筋での血流量を増加することでエネルギーの消費を高めると言った作用が報告されているものがあります。
また、糖尿病では腎障害が起こりやすいですが、ARBやACE阻害薬には腎臓などの臓器を保護する作用があります。
このため、糖尿病やメタボリックシンドロームに積極的適応があります。
誤嚥性肺炎
誤嚥性肺炎に対して効果があるのはACE阻害薬のみになりますので、ARBにはこの効果は期待できません。
「誤嚥性肺炎」と言う言葉は聞いた事がある方も多いと思いますが、どう言う疾患でしょうか?
物を飲み込む働きを嚥下機能、口から食道へ入るべきものが気管に入ってしまうことを誤嚥と言います。誤嚥性肺炎は、嚥下機能障害のため唾液や食べ物、あるいは胃液などと一緒に細菌を気道に誤って吸引することにより発症します。
「平成27年(2015)人口動態統計の年間推計|厚生労働省」によれば、肺炎は日本人の死亡原因の第3位ですが、その多くが誤嚥性肺炎であると言われています。
嚥下機能の低下は高齢者などで起こりやすいです。
ACE阻害薬は、咳反射の低下を抑制する(つまり、咳をしやすくする)ことで、誤嚥により細菌を気道に吸引した場合でも排出しやすくする効果があります。
以上、「高血圧治療薬のARB・ACE阻害薬が適した方とは?」でした。