例えば高血圧症と糖尿病を併せ持つと心筋梗塞や脳梗塞、脳出血がとても発生しやすくなりますが、このような方も正常範囲で血圧をコントロールできていれば、問題ないのでしょうか?
この答えはもちろん「No」で、患者個々の血圧の適正範囲は年齢やどのような病気を併せ持っているか、日常環境などの患者背景により変わってきます。
今回は「高血圧治療のガイドライン2014」で、これらがどのように定められているのか解説したいと思います
年齢による区分
年齢による血圧の目標値は、後期高齢者(75歳以上)かどうかで二分されます。
若年・中年・前期高齢者は診察室血圧で140/90mmHg未満、家庭血圧が135/85mmHg未満が目標値となっています。
診察室血圧・家庭血圧についは以下の記事をご参照下さい。
それに対して、後期高齢者では診察室血圧は150/90mmHg未満、家庭血圧では145/85mmHg未満が目標値となっています。
なぜ、後期高齢者の目標値が高めなのかと言うと、生理機能が低下してる事が多いため、薬を代謝や排泄することで効果を消失させる能力が低下しているためです。
つまり、薬の効果を強くすることにより薬の副作用が出やすくなったり、血圧を下げ過ぎることでふらつきなどの低血圧症状などが出やすくなるためです。
ただし、後期高齢者であっても血圧を下げるお薬で副作用や低血圧症状によるリスクなどが無さそうであれば、若年・中年・前期高齢者と同様の目標値である、診察室血圧が140/90mmHg、家庭血圧が135/85mmHg未満でコントロールします。
合併症の有無による区分
糖尿病
高血圧と糖尿病を併せ持つ方は、心血管疾患や慢性腎不全を発症する危険性が非常に高くなっています。
糖尿病と高血圧の関係については、以下の記事をご参照下さい。
十分に血圧を低下させることで、心血管疾患や慢性腎臓病が進展しにくいと言う報告があるため、血圧の目標値が低めになっており、診察室血圧で130/80mmHg未満、家庭血圧で125/75mmHg未満と定められています。
慢性腎臓病
慢性腎臓病(CKD)とは、腎臓の機能が正常以下に徐々に低下した状態を指します。
急性腎臓病では回復の見込みがありますが、慢性腎臓病では劇的な回復は困難です。
腎機能は、尿検査で行われる「尿たんぱく」や、血液検査で行われる「クレアチニン(Cr)」や「尿素窒素(BUN)」や「シスタチンC(Cys-C)」などと言う指標を参考にします。
特に、「eGFR」と言う腎臓がどの程度機能しているか示す指標は、「クレアチニン」や「シスタチン」から計算されます。
(一般的に用いられているのは、クレアチニンから算出する方法で、軽度の腎機能障害で腎機能をより正確に判定したい場合などに「シスタチンC」を用いて算出することがあります。)
高血圧は腎臓に対する負担が大きいため、慢性腎臓病を併せ持っていて、なおかつ尿たんぱくが陽性の方では、診察室血圧では130/80mmHg未満、家庭血圧では125/75mmHg未満が目標値とされています。
脳血管障害患者・冠動脈疾患患者
脳血管障害患者や冠動脈疾患患者では、診察室血圧を140/90mmHg未満、家庭血圧を135/85mmHg未満の目標値が定められています。
しかし、心筋梗塞後や抗血栓薬(血液をサラサラにする薬)を服用中の患者様などでは、可能であれば診察室血圧で130/80mmHg未満を目標にすべきとなっています。
まとめ
以上をまとめると下図のようになります。
診察室血圧 | 家庭血圧 | |
若年~前期高齢者 | 140/90mmHg未満 | 135/85mmHg未満 |
後期高齢者 | 150/90mmHg未満 (場合により140/90mmHg未満) |
145/85mmHg未満(目安) (場合により135/85mmHg未満) |
糖尿病患者 | 130/80mmHg未満 | 125/75mmHg未満 |
CKD患者でたんぱく尿陽性 | 130/80mmHg未満 | 125/75mmHg未満(目安) |
脳血管障害・冠動脈疾患患者 | 140/90mmHg未満 | 135/85mmHg未満(目安) |
実際には、これに各個人のさまざまな背景を考慮して、医師が本人に適していると思われる血圧の範囲内でコントロールします。
コメントを残す