インスリンは食後に分泌されるものと思っている方は多いです。しかし、それは間違いではありませんが正解でもありません。
今回は、インスリン分泌が食後と空腹時でどのように調節されているかについて書いています。
インスリン分泌にはどのようなパターンがあるのか
人はインスリンの「基礎分泌」と「追加分泌」により、血糖値を一定の範囲内になるように調節しています。
インスリンの分泌は食後だけではない
心臓を動かしたり、呼吸をさせたりなど、生命活動の維持に必要なホルモンは常に分泌されており、これらのホルモンは血糖値を上昇させます。
また、ストレスがかかった時にも「コルチゾール」と言う血糖値を上昇させるホルモンが分泌されます。
このため、血糖値の過剰な上昇を抑えるために、空腹時であってもインスリンは常に分泌され続けているのです。
この常に分泌されているインスリンを「基礎分泌」と言います。
食後の高血糖はインスリン分泌の追加分泌で下げられる
次に、食後のインスリン分泌ではどのような事が起こっているのか見ていきます。
食事をすると、まず小腸から「インクレチン」と言うホルモンが分泌され、栄養素が吸収されたことを膵臓に伝えます。
膵臓は血液中の血糖値の上昇を瞬時に感知し、血糖値を上昇させるホルモンであるグルカゴンの分泌を抑え、膵臓のβ細胞からインスリン分泌を促し、食後の血糖値の急上昇を抑えます。
この食後に分泌されるインスリンを「追加分泌」と言います。
追加分泌には、「初期追加分泌」と呼ばれる食直後に分泌されるインスリンと、「後期追加分泌」と呼ばれる初期追加分泌から少し遅れて分泌されるインスリンがあります。
糖尿病の初期には、初期追加分泌が低下してくるため、それを補うように後期追加分泌を増やそうとします。
しかし、糖尿病が進行すると、後期追加分泌も低下してきてしまいます。
2型糖尿病では、追加分泌の分泌量が低下したり、タイミングが遅れていることが多いのです。
空腹時血糖だけでなく食後血糖の測定も大事と言われる理由がこれなんだね。
空腹時では脳などの重要臓器に優先的にブドウ糖を供給
前述した通り、空腹時にもインスリンは分泌されています。
しかし、ブドウ糖が不足しているため、インスリンの分泌量はかなり少なくなっており、血糖を上昇させるグルカゴンの分泌が高まっています。
このような空腹時にグルカゴンなどの作用により作られた血液中のブドウ糖は、脳などの重要臓器で優先的に使用されるようになっています。
インスリン分泌を図解
健常な方では、このようにインスリン分泌が行われ、食後の急激な血糖の上昇が抑えられることで常に血糖値が一定の範囲内に保たれています。
しかし、糖尿病患者ではインスリンの基礎分泌や追加分泌の分泌量が低下していたり、追加分泌のタイミングが遅れたりするため、血糖値が十分に下がらず高血糖の状態になってしまいます。
インスリン分泌が低下した方や「糖毒性」を解除するために、インスリン製剤が使用されます。
インスリン製剤では以下のような種類があります。
- 超速効型インスリン
- 速効型インスリン
- 中間型インスリン
- 混合型インスリン
- 持効型インスリン
この内、超速効型インスリンと速効型インスリンは追加分泌を補う目的で処方され、中間型インスリンや持効型インスリンは基礎分泌を補う目的で処方されることが多いです。
インスリン製剤を使い分け、投与量を調節し、健常者の生理的なインスリン分泌に近くなるようにすることで、低血糖リスクを抑えて動脈硬化の進行を防ぐことが出来るのです。